2012.11|「I Love Kyoto Kaikan」運営人河本順子さんインタビュー公開中

6.12.2012

QC3|09 ナデガタ・インスタント・パーティー 「「地域活性化」の論理といかに距離を取り、出来事を作品としてどう残すか」




今回お話をうかがった「ナデガタ・インスタント・パーティー/Nadegata Instant Party」は、中崎透(上写真右)、山城大督(同左)、野田智子(同中)からなる(本人達曰く)「本末転倒型オフビートユニット」である。各地の地域コミュニティに関わりながら、ありそうでなさそうな設定をつくりだし、人々とともにインスタレーションや映画、イベントなどを作品として制作する。その際の設定はいわば「口実」でしか無く、その口実のもと生まれる出来事やコミュニケーションの方へと眼差しを向けているところに彼らの特徴がある。こうした概説から思い浮かぶかもしれない「地域活性」を必ずしも目的とせず、しかし、地元の人、参加者、行政、それを見る人といったレイヤーの複数性を意識する彼らは、そうした枠組が持つ構造そのものを可視化してくれているように思われる。また彼らはあくまで美術作家として、アイデアを実現するプロセスを作品化することにきわめて意識的である。地域に関わっていくなかで、何をどのように残していくのか? ナデガタ・インスタント・パーティーという美術作家による問いかけから見えてくる「地域」との関わり方について考えていきたい。(2012.03 新宿らんぶるにて)




1/4 <シチュエーションのなかでどのようにアイデアを実現するか?>
2/4 <地域のなかへどのような「口実」をいかに導入するか?>はこちら
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―まず「ナデガタ・インスタント・パーティー」がどのような活動を行なっているか教えてください。


山城:ナデガタ・インスタント・パーティーは中崎透、山城大督、野田智子の三人からなっています。それぞれ学校も違っていますが、ある場所がきっかけになって結成されました。それが阿佐ヶ谷住宅というところで、その一室を「とたんギャラリー」として取り壊されるまで展覧会などをやっている人たちがいたんです。そこで即席の場や仲間をつくるということをイメージして作品をつくってみようと集まったのがナデガタ・インスタント・パーティーです。

阿佐ヶ谷住宅の展覧会【註:2007年「Install Party」】では、天井からバナナがつり下がっていて、そのバナナをオーナーが取ろうと思うんだけどちょっとだけ背が足りなくて取れない。取れないから70センチ床をあげたらいいんじゃないか、というアイデアを実行しました。そもそも「バナナを取る」という目的はあるんですが、別に誰も取りたいなんて思ってないし、取るなら椅子を持ってきたらいいだけなんですが、床をつくるという口実によって、展覧会だと思ってそこに来た人たちが手伝ったり、インスタントなパーティーが生まれたらいいなというのが最初のプロジェクトでした。


《Install Party》2007, TOTAN GALLERY(東京)
©Nadegata Instant Party


その後例えば美術館でコレクション作品を使ってプロジェクトをやるというシチュエーションでは、美術館を舞台にしたサスペンス映画【註:2009年「Reversible Collection」】をつくりその映画の中にコレクション作品を全部導入するようなものをつくったり、小学校の体育館で展覧会をするというシチュエーションでは、ネット上で集めた人にネット上でコミュニケーションを取ってもらい、本番当日に集まってダンス作品をつくってもらったり【註:2008年「Offline Instant Dance」】、広島の街の中でプロジェクトを行うというシチュエーションでは、広島の何でもない住宅街にデートコースをつくったり【註:2007年「Boogie-Woogie Install Date」】。最初にシチュエーションありきで、そこをリサーチして発案し「実現するにはちょっと大変だけどできないことはない」というギリギリのアイデアを出して実現させ、そのプロセスをどうやって作品と呼べるのかという実験をずっとしています。


《Reversible Collection》2009, 「現代美術も楽勝よ。」水戸芸術館現代美術センター(茨城)
©Nadegata Instant Party



《Offline Instant Dance》2008, 「Akasaka Art Flower 08」旧赤坂小学校(東京)
©Nadegata Instant Party



《Boogie-Woogie Install Date》2007, 旧中工場アートプロジェクト「わたしの庭とみんなの庭」(広島)
©Nadegata Instant Party



野田:山城と中崎がアーティストとして動いているんですが、私はその中に入ってマネジメント全般を引き受けています。山城とは大学時代に友人を介して知り合っていて、彼はメディアを扱った作品をつくっていたのですが、コミュニケーションから作品をつくっていくような手法を持っていました。一方中崎とは飲み会のようなところで会ったのですが、彼はアナログな仕事をしていて、油絵出身なんですけど絵を描いていないんですよね。むしろコミュニケーションをとりながら作品をつくっていく。そこが山城とすごく似ていた。アウトプットの仕方は全く違うんですけど、この二人が一緒にやったら面白いんじゃないかと思い、阿佐ヶ谷の件で話をもらっていたのでそれを二人にしたのがはじまりですね。


―山城さんと中崎さんの役割分担はどうなっていますか?


中崎:基本的にはものすごいクリアです。技法的にいうとアナログとデジタルとで分かれていて、デジタル系は山城。写真、映像、ウェブ、デザイン系を主に担当していて、僕は比較的アナログ系。つくり物だとか、何かを描いたりだとか、演出だとかが担当です。ネタだしの部分は野田も加わって行い最終的に三人で揉んでいくという感じですね。

野田:その時に思うのは、二人ともめちゃくちゃなことを言うんですよ。というか、実現できるかどうかのギリギリのことを言う。しかも無責任に言ってて、もちろん愛があるんですけど、どんどん、どんどん加速していくんです。中崎が言ったことに山城が反応してイメージを膨らませ、またそれに中崎がキーワードを言って増やしていく。小さなパーツが蓄積していくという感じがあります。

中崎:無責任とは言え本当にできないことはやろうと思わなくて、経験的に「これはこうなったら大変だしギリギリだけど多分できるだろうな」ということを言っています。だから、宇宙に行きたいとかは思わない。この予算規模の、こういうフレームの、こういう企画でこういうところから実現された時に、ここは多分こういうルートを使ったらできる可能性があるな、ということからしか考えていないですね。


―今回私たちがナデガタ・インスタント・パーティーにインタビューしたいと思ったのは、静岡の「どまんなかセンター」で地域と関わり、それが一見すると地域活性化的なプロジェクトに見えたということがあります。その背景と意図について詳しく教えていただけますか?


山城:「どまんなかセンター」は「Instant Scramble Gypsy」という作品の中のひとつのパーツという設定です。舞台となったのは静岡県の袋井市にある「月見の里学遊館」という文化施設です。建築家長谷川逸子さんが設計した建築で、ソフトにも長谷川さんが関わっています。つまりただ単に建築家が設計に関わっているだけではなく、また行政がトップダウンで施設をつくって文化事業をやるというだけでもないかたちを模索してつくられた施設です。そこは市民スタッフというボランティアの方たちに館の運営をさせていたのですが、彼らに給料が出るわけでもないので紆余曲折があり、あまりうまくいってない。そこに僕たちが行ってその市民スタッフたちと何かやってくれという提案でした。でも建築もしっかりできていて、そこに欲望自体が無いというか、「ここをこうしたい」という市民スタッフの欲望もないし、僕らの方にも「ここで何かしたい」という欲望があるわけではないし、展覧会をやっても人も見込めないだろうし、建物の使い方もよくわからないな、という感じで一年くらい通いました。


《Instant Scramble Gypsy》2011, 月見の里学遊館(静岡)
「YAH!YAH!YAH! わたしの袋井写真展」展覧会風景
 ©Nadegata Instant Party



二度目に行った時、街の中心に「旧中村洋裁学院」という廃屋があるのを見つけたんです。入ったら結構いい感じのサイズのスペースで、東京だったら確実に壊されているような建物が駅から歩いて10分くらいのところに残されているということが袋井という街を象徴しているなと思い、ここを仮想のコミュニティセンターにできたらいいなと考えました。何億円もかけて建てた建物が機能してないのに、誰も使っていない廃屋をもう一回みんなで再生させることで本当のコミュニティができ上がるんじゃないかな、と。


「どまんなかセンター」外観
 ©Nadegata Instant Party



設定としては、「月見の里学遊館」では写真展が開催され中が埋め尽くされるので三週間くらい貸し館部分が利用できなくなる。ゆえにその別館として「どまんなかセンター」をつくるのでこちらを使ってください、というものでした。そして街のはずれの「月見の里学遊館」から街のど真ん中にある旧中村洋裁学院まで「追い出された人たち」が移ってくるというシナリオがあったんですね。実際には「月見の里学遊館」から移って来る人はほとんどいなくて、どちらかというとこちら側で新しく来るようになった人たちによるコミュニティが強かった。市民スタッフの何人かは移って貸し館事業を運営してくれましたが。

当初思ってた以上に場所の力が強くて、この地域の人たちだけでこの場所を面白く使える人が出てきました。近所の自治会の人から始まって、おじさんたちがそこでライブをしたり、お母さんたちがクリスマスパーティーをしたり、小学生が毎日来るようになったり、元々ある空間がすごくよかったから人が集まるようになって、僕らが設定していたよりもうまく機能して今もまだ続いています。その活動を新聞で見て、僕らが新しくつくったということを知らずに「どまんなかセンター」に来てる人たちもいっぱいいるんです。そういう僕らがつくったフィクションのストーリーのもとに現実の人たちがその場所を使い続けているという状況が面白いなと思っています。




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プロフィール

Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)
中崎透、山城大督、野田智子の3名で構成される「本末転倒型オフビートユニット」。2006年より活動を開始。地域コミュニティにコミットし、その場所において最適な「口実」を立ち上げることから作品制作を始める。インスタレーション、イベントなどに様々な人々を巻き込み、「口実」によって「現実」が変わっていくプロセスを作品として展開する。代表作に《Riversible Collection》2009年(水戸芸術館現代美術センター)、《24 OUR TELEVISION》2010年( 青森公立大学 国際芸術センター青森)、《Yellow Cake Street》2011年(Perth Institute of Contemporary Arts)がある。今後の予定として「開港都市にいがた 水と土の芸術祭2012」(新潟市内全域)、「街じゅうアートin北九州2012 ART FOR SHARE」(北九州市内)、「MOTアニュアル2012」(東京都現代美術館)への参加を予定している。