2012.11|「I Love Kyoto Kaikan」運営人河本順子さんインタビュー公開中

7.09.2012

QC3|10 小川玲子 「「外」から来る人たちを地域でどう迎え入れるか」


2/3 <「日本にいることがベストではない」という選択肢もあり得る>

3/3 <コミュニティの強化に「外」から来た人が貢献する> はこちら
--


―例えば対外国人を意識した取り組みとして福岡は早い時期から対アジア政策を打ち出していますが、その中で移民の定住その他の問題に対する取り組みも見られるのではないでしょうか?

福岡は炭鉱地帯で多くの朝鮮人や中国人労働者が働いていたという歴史があります。九州だけでも朝鮮や中国の人たちが万単位で働いていて、1945年に55万人の中国人や朝鮮人たちが博多港から帰って行き、そして130万人の日本人が大陸と半島から引き揚げてきたという大規模な人の流れがあります。ただ戦後エネルギー政策の転換があり、炭鉱が閉鎖され石油に代わっていく中で失業者が増え、釜ヶ崎や別の働き場所を見つけて流れていったということがあります。もちろん残った人たちもいて、このあたりにも韓国系と北朝鮮系の公団住宅がありますが、そこに住む方々も高齢化していて、デイサービスが行われていたりします。

福岡のアジア政策は80年代から始まり「福岡はアジアの玄関口だ」と言い始めるわけですけど、それは歴史性を無視した形で、つまり都市ブランディングの観点や「福岡はアジアに近い」という地理的観点からはじまったというところがあります。86年「アジア太平洋博覧会(よかとぴあ)」の後にアジア美術館やアジア文化賞など様々なアジア関係の制度的インフラができていきますが、それは炭鉱の歴史とは全く関係のない、グローバル化され商業主義化されたものとしてアジアと結びついていったという流れがある。ゆえに私はやや批判的に見ています。もし本当にアジアに一番近いということを言うのであれば、もっと歴史教育と言語教育を充実させるべきではないかと思います。経済的にも中国や韓国に対する依存度は東京とは比べ物にならないですし、東日本大震災の後には中国や韓国からの観光客が激減したというくらい依存しているにも関わらず、じゃあそういう状況に対応する人材を育てているかというと育てていないだろうと思います。もちろん大宰府などに行けば案内は韓国語で書かれているし、お店の方たちも韓国語ができたりするのですが、もう少し教育のレベルで中韓の人たちと付き合える人材を積極的に育成したらいいのではないかと思います。


―NPOや任意団体で移民を対象とした活動を行われている方々には、どのような取り組みを行われている人がいらっしゃるのでしょう?


例えば日本人と結婚した移民女性がDVを受けた時に彼らのシェルターとなるべく活動しているNPOなどは、フィリピン語やインドネシア語などの多言語ホットラインを運営しています。特に2005年に人身売買の規定が厳しくなってからは偽装結婚などアンダーグラウンドな形でアジアの女性たちが来日するようになってきていて、初来日が結婚という女性たちにとっては、このようなホットラインが命綱になっています。花嫁以外でも言葉が分からない外国で、強制的に働かされている人にとっては多言語ホットラインはとても大事だと思いますね。


―移民の方々とのお話する中で、物理的な都市環境に対してまた異なった見え方があったりするのではないかと思いますが、いかがでしょうか?


福岡は暮らしやすいと言われていますが、実際に暮らしてみると治安があまりよくないので、女性の一人暮らしは大変だと思います。また、ここ数年の間に家の周りのスーパーが3件潰れてしまいました。車を持っている人は大きなショッピングモールに車で行かれるのですが、近所のスーパーに買い物に来ていたお年寄りの方々はその後どうなったんだろうと思って見ていると、仕方なくコンビニで買い物をしているんですよね。車がない高齢者にとっては、近所のスーパーがなくなることで、生活の質が下がってしまったと思います。さらに、車社会で運転が荒っぽい、というところも目につきます。この辺でいうと箱崎商店街という商店街があるんですが、道が狭いにも関わらず車が両方向から入ってきますし、電信柱が外に出ているので子供を自転車に乗せたお母さんが車とすれ違うときはとても危険です。

でも、移民の方々はもっと条件が厳しいところから来ていることもあるので、インフラのことで文句を言うことはあまり聞かないですね。外国人が暮らす上でまず大事なのは宗教施設で、数年前大学の裏に九州初のモスクができました。金曜日になると200人くらい人が集まっています。大名・天神にはカトリックの教会があり日曜日には英語のミサをやっているのでクリスチャンの人はそこに行きます。宗教施設が近くにあるということは、彼らにとって大変重要です。そのため九大移転の際にはこのような宗教インフラに対するアクセスがどうなるのか気がかりです。それから食べ物屋さんもとても大事です。箱崎九大前の駅前にはインドネシア人がやっているハラールフードのお店がありますし、キャンパスの中にエジプト人がやっているファストフードのケバブ等のお店があります。




           インタビュー風景(九州大学小川玲子研究室にて)


―同じ国からの移民が多く集まる集住地域は福岡市内にどのようなところがあるのでしょうか?



福岡にはいわゆる「チャイナタウン」や「ブラジル人街」と呼ばれるようなところは無いのではないかと思います。ただ香椎浜に200人規模の留学生寮があり、そこがひとつの拠点になっていますね。隣接するスーパーも色々な食材が充実しています。留学生会館は最長でも一年間しかいられず、そのあと家族のいる学生はURの提供する公団住宅に移っていきますので、近所の学校は外国人の子供が多いと思いますが、ちゃんと日本語教員をつけて下さっているようです。また、千代県庁口にある団地は総連系の方たちが住んでいるところです。もうひとつ韓国系の方々が住んでいた団地が近所にありますが、最近は韓国人たちは出てしまっていて、中国人に貸していたりします。韓国系の人たちは「ミンパク」といって民間の家を宿泊場所にしてお客さんに貸すというシステムがあります。私も泊めてもらったことがありますが、1泊2000円でお風呂もあり台所もあって快適ですが、知らない人と一緒なので少し緊張します(笑)。近所の千代小学校は職員室などの表記が日中韓英の四言語で表記されていて、もともと在日外国人が多いところですね。東区の第2言語は中国語ではないかと思うほど人口で言えば中国人が一番多く、中国のフリーペーパーもあります。こうやって指摘はできるのですが、例えば愛知のように外国人が集住して共同体をつくっているかというとそうではないと思います。


―海外からのケアワーカーへの協力の仕方と今後について考えていることについてお聞かせいただけますか?


経済連携協定で来日しているケアワーカーたちに関しては、メディアの論調としては彼らに定住してほしいというのが強いと思います。政府もお金もたくさん使っているし、受け入れ施設としては生活支援や教育のための時間をたくさん使っていますから。でも彼らには彼らの人生があります。だから、日本にいることがベストではないという選択肢だって当然あり得ると思います。個人的には、日本から学べることは学んで欲しいし、得られるものは得て欲しいと思いますが、日本にずっといることが幸せにならなければ意味はないし、それはあくまで個人の人生の選択ですからね。


ただ既に生活の基盤がこっちにある在日外国人たちは状況が違うと思います。彼らは定住なり永住なりという方向に動いていて、子供がいて旦那がいてこれからも日本で生活していきたいと思っている人たちにとっては、日本の滞在をどのように過ごすかはとても大事です。多くの人たちはエンターテイナーとして来日した過去を持っていて、―エンターテイナーというのは日本政府が許可した専門職なんですがー、それは社会的にはあまり評価されないというのは彼らも知っているわけです。お金は稼げるけど虚飾の世界ですし。そこからケアワーカーになるというステップはとても大きいので支援が必要です。もちろんみんながみんなケアワーカーになる必要はなく、それ以外の仕事に関心がある人は別のキャリアに向けて進めばいいわけですが、そうした社会統合に向けた後押しは絶対に必要でしょう。


―エンターテイナーとして来日した方がケアワーカーになる事例は多くあるのでしょうか?

そうですね。というのは80年代、90年に彼女らは来日していて現在は30代後半から40代。そうするともうエンターテイナーとしては働けないことになるのですが、他にどんな仕事があるのかと言うと、ホテルのベットメイキングや総菜屋、工場での仕事など日本語をあまり使わなくてよい仕事なんです。でも中には人間を相手に仕事がしたいという人もいますから、そういう人にはケアワークはいいんです。みんなが生活保護を受けるような状態にならないよう、労働として包接し、社会参加していかれるような政策が必要だと思いますね。



--
プロフィール
小川玲子(九州大学) 
幼少期にアパルトヘイト体制下の南アフリカで育ち、国際協力の仕事で文化遺産の保存や東南アジアの先住民族やムスリム女性のエンパワーメントに携わった後に現職。大学では留学生担当教員を務めながら移民研究に携わる。Globalization of Care and the Context of Reception of Southeast Asian Care Workers in Japan, Southeast Asian Studies, 2012, Vol. 49(4);(共著)eds. Henk Vinken et al., 2010, Civic Engagement in Contemporary Japan, Springer, USA;(共著)大野俊編、2010年、『メディア文化と相互イメージ形成』九州大学出版会etc.