2012.11|「I Love Kyoto Kaikan」運営人河本順子さんインタビュー公開中

11.28.2012

QC3|11 河本順子「京都会館建替え問題から見る「京都」」



3/5 <市からの摘録を追い抜いて議事録を公開する>
4/5 <交渉で物事が決まるということと公開で物事を決めていくということとの矛盾> はこちら
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失われるシーン:第一ホール


―署名問題や個別の活動について情報収集者の立場からいろいろと見られていると思いますが、「これは効果的だ!」と思われた試みはありますか?


手前味噌になりそうな話ですが、影響があったという意味では建物価値継承委員会でしょうか。京都会館の建物価値を専門家に聞こうということで京都市が立ち上げた委員会が建物価値継承委員会【註:正式には「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」】です。こうした委員会が行なわれると議事録が残されます。それを摘録と言いますが、大抵公開されるのが遅いのです。物事がいろいろと決まった後にしか市民の目に触れないわけです。しかも簡単なまとめしか出ない(参照)(【具体例】第6回京都会館再整備検討委員会の摘録)。

これは問題だと思い、この会議に出て、ものすごく緻密にメモを取って、帰ってきて即、記事にしてウェブサイトに載せました(参照)。



京都会館の建物価値継承に係る検討委員会について/京都市文化市民局文化芸術企画課(参照



建物価値検証委員会 第一回会議 傍聴メモ I Love Kyoto Kaikan(参照


こうして速報性を持って継続的に記事を出していきました。何週間か後に京都市も摘録を公開しました。もちろんこうした活動が理由になったわけではないかもしれません。けれど、詳しい摘録が以前より早くに出たのではないでしょうか。また、ブログでは、一度にウェブサイト上で読みやすいと考える分量に分割して連載したことで、関心をもってくださってる人が、きちんと毎日読み込んでくださったんですね。それは情報を共有する意味でとても大きな力になったと思っています。地味な委員会での話をみんなが知ってるわけです。情報公開は大事だと思いました。


―価値継承委員会発足の経緯はどのようなものだったのでしょう?


発足したのは2011年にロームとの契約が正式に決まったときです。日本建築学会から2名、その他専門家と地元関係者計8名で構成された委員会でした。建物価値をきちんと検証して、京都会館の建て替えを行ないますという市長の肝いりで出来たそうです。実際は、基本設計者がすでに決定しており、設計業務と並行して建物価値を検証する委員会が行なわれるという前代未聞の進行状況でした。



京都会館改築イメージ:フライタワー


京都会館改築イメージ:共通ロビー


ただ、私の記録を見ていただけると分かるのですが、委員の方々は京都市側の提示している案に反対する発言もしておられます。例えば今回増築される中庭にガラス張りの共通ロビーが設置されることに8名中6名が反対されています。フライタワーを30mの高さにすることにも反対されています。「建物価値が守られない」と発言している記録が残っているにもかかわらず、結果的に京都市は無視しているわけです。そしてさらに問題なのは「建物価値継承委員会をやりました」と、お墨付きをもらいました、建替え案は問題ありませんよ、と言うための、証拠として利用していることです。そうすると摘録まで調べる人はそんなにいませんから「そうなんだ」と信じてしまうんですよね。だから私はいろいろなことがこういう感じで進むのだなということを学びましたね。



価値継承委員会の風景


―建前がそのまま力を持ってしまうわけですね。


そうです。内容より形式が優先されて、形式さえ整えればなんとでもなるという感じでどんどん事態が進行していきました。その間、市民側との話し合いは何度も要望書を出したにも関わらず、結局一度も持たれませんでした。


―ところで、情報公開によって委員会自体に与えた影響もあったのではないでしょうか?


そうですね。建物価値継承委員会のことを記事に載せると、委員の先生方も見ておられたようです。自身の発言がネットに公開されているということは一定の効果があったのかもしれません。



京都会館の建物価値継承に係る検討委員会委員の皆様への意見書 「京都会館を大切にする会」   I Love Kyoto Kaikan(参照


「京都会館を大切にする会」からも建物価値継承委員会の委員の皆様に意見書が出されました。「これでは建物価値が守られないですがいいのでしょうか? はっきり発言してください」という趣旨の内容です。すると、それまで発言を迷っておられたような方が「共通ロビーはダメです」とはっきりと言われるようになりました。みんなが動向を注目して見ていることを知らせるのもまた効果があると思いました。


―委員会はまだ続いていますか?


2012年3月末で京都会館が閉館し工事がはじまる段取りだったので、3月までで5回で終わる予定だったのですが、紛糾したので6回になりました。3月28日の6回目が最終日でした。建物価値継承委員会の後に提言が出て終了しました。その提言の書き方が抽象的だということもあって、その後、京都市はうまく利用していると思います。

また、利用されていることについて、委員会から異議申し立ての書面でも出るのかと思っていましたがそういうことはありませんでした。しばらくして、委員会の副委員長を務められた石田潤一郎さんという京都工芸繊維大学の先生が京都民報の取材に応じられました。先ほどレッテル張りの話しをしましたが、そうしたリスクを考えても黙っていられない状況だったのではと想像しています(参照)。



京都会館検討委員会異例の「提言」の真相 石田潤一郎氏に聞く  「京都民報web」   I Love Kyoto Kaikan(参照


いま京都会館解体の件でユネスコの世界遺産を調査する諮問機関であるイコモスのISC20Cから意見書が京都市長宛に送付されています。それを受けて日本イコモス国内委員会が検討委員会【註:正式には「日本イコモス第14小委員会」】を設置して京都市の計画について調査中です。現在の京都会館の再整備基本計画を変えないまま工事を続行すると現段階の警告3を4、5と上げていきますよ。5になれば全世界に公表しますよ、という内示状態です。



「日本イコモス」ウェブサイト(参照


―具体的にはどういう公開がなされるのですか?


具体的には、「警告5」になるとイコモスのウェブサイトに公開されます。そうなると世界で3例目となります。これまでスウェーデンと香港の近代建築の2例だけで、その2件は工事自体もストップしています。京都会館は3例目になるかどうかというところです。京都市もこれはさすがにまずいと考えています。京都は2012年11月の世界遺産40周年記念大会の指定地であり、その開催地であるにもかかわらず、京都会館の取り壊しをはじめている、と。ということで政治的には水面下でいろいろ交渉が続いているようです。


―とはいえ解体は進んでいますよね?


はい。京都市としては、解体が進んでしまえば警告が出ようが何しようが仕方ない、というところまで解体するつもりでしょう。なお、現在京都市は「素材及び部材の再利用拡大を検討するための調査」と「解体工事を通じた記録報告書の作成」については取り組む用意があるとイコモスに回答しています(参照)。ただ、解体自体を中止する、設計変更する等の検討は全く考えていないようです。

そんな中、日本イコモス第14小委員会の設置はある意味画期的かもしれません。今後の日本における近代建築の保存・継承についてのガイドラインをつくる最初の機会が設けられたことになるからです。困難な状況だとは思いますが、委員会のみなさまにはぜひともこの後の近代建築の保存・継承についての見本になるような検討報告書を作成してほしいと思っています。





京都会館解体工事風景


京都会館の再整備基本計画を読んだ専門家の方が、この計画には専門家の精査が入っていない、つまり素人がやっている、という発言をされたことがあります。私も調べていて行政が行政のためにやった計画にどうしても思えてしまいます。そして、ある閉じられたコミュニティの中で進められた計画が、一旦動き出すと誰が何を言おうが止めることができないという仕組みそのものが見えてきました。


―河本さんとしては、そこにどういう貢献をされようとしていますか?


いろんな方にこの問題について考えていただくことや、働きかけをすることでしょうか。とにかくこの件に関わって、たくさんの方々とお会いしました。そうした作業に一番時間を割いています。最初はウェブサイトでの発信だけだったつもりなのに……(笑)





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プロフィール

河本順子
京都市在住の会社員。現代美術講座「高嶺格:アーティストワークショップ」(2006年)への参加がきっかけとなり、公共と個人の関係性について興味を抱くようになる。そのための方法論を市民の立場より考えることについての思考を継続中。台所大学picasomに参加(2010年 - )市民のための「政治」ワークショップ(2011年)グルジア椅子ワークショップ(2012年)